「今年の後夜祭、ねるとんだってさ」
「ねるとんってあの紅鯨団?」
「うわー!楽しみ〜♪」
「えっ?っていうか全校生徒で?」
「すごいことになりそう」
「強制参加?」
「だって文化祭自体単位に含まれてんじゃん」









きっと言葉だけじゃだめだよ

Man & Woman

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江古田高校全校生徒621人の内男子生徒は345人、女子生徒は276人。
つまり69人の男子は必然的に余り者っていうわけで。

校内サバイバルに敗れた者は他校に出逢いを求めたり、女性教師との禁断の恋に走ったり、はたまたさっさと諦めて二次元の方へ逃げ込んだり。

これはどこの学校でも、いつの時代にも見られる光景で。
そんななか黒羽快斗はそんなことおかまいなしに、スクールライフをエンジョイしていた。



「何でお前だけがモテるんだ?」
「うん?人徳じゃん?」
「ゼッテー違うって」
快斗の周りにはいつも人が溢れていて。
しかも女子が多いものだから、何かと男子はつっかかるつっかかる。
だからといって快斗は幼馴染みはいても特定の彼女がいるわけではないし、たくさんの告白を受けているわけでもない。
「モテるわけではなく、ただお調子者だからでしょう」なんて探の言葉通り、
「黒羽君って面白くて良い人よねー」で終わってしまうタイプだ。



「あーモテてー」「独り身は切ねー」と呟いたクラスメイトたちに、快斗はにんまり笑って
「そんな君たちに朗報。今年の後夜祭、ねるとんだってさ」
「マジで?!」
「やっべー痩せよう」
「美容院行かないと」
とてんやわんやの大騒ぎ。

それを見た探の「ねるとんって何ですか?」という素朴な疑問には、
「お前知らないの?!紅鯨団だぞ?」
「これだからおぼっちゃんはなー」
「青子も知らない。何か美味しいもの?」
「違うって。集団お見合いみたいなもの?昔テレビで流行ったじゃん」
「あぁ、フィーリングカップルですか」
「古いよその言い方」
「とにかく楽しみー」
なんて文化祭はまだ先なのに、クラス中・学校中が大盛り上がり。

「でも何人かは絶対余るってこと、解ってないのね」
「そもそも全員が全員、参加するわけでもないですしね」
と紅子と探だけが冷めていた。











準備期間は長いのに、いざ本番となるとあっという間で。
二日間の一般公開は終わり、二日目の夕方からは在校生だけによる後夜祭。
毎年それなりに盛り上がる後夜祭だが、今年はねるとんということで一部の生徒の間にはある意味鬼気迫るほどの盛り上がりをみせていた。

「彼女いない暦と実年齢がかぶる生活に終止符を打とうじゃないか!同志たちよ」
「うぉーーーーーーーー!」

こうして受験のある三年生と彼氏・彼女持ちを抜かした102人による、史上最も大規模なねるとんが江古田高校グランドにて行われることになった。
参加しないその他の生徒たちは他人事と気ままに恋の行方を見守ったり、祭りの陰でこっそりよろしくやっちゃっていたり。教師陣も好き勝手。



「快斗は参加しないの?」
「だってオレ、貴さん役だもん」
文化祭実行委員長である快斗は司会進行役。
「何それ?」
「全員が参加してたら貴さんチェックやる人がいないじゃん」
「そんなもんなの?」
「青子は誰にも告白されんなよ」
「何で?」
「いいから。っていうかお前も参加しなくて良かったのか?彼女いないんだろ?」
「僕は興味ありませんから」
苦し紛れに探に話を振ったら、「それに僕は何故か君の相棒で、ノリさんとかいう人の役なんでしょう?」なんて涼しげな顔で言われてしまった。





「おめーらが見る前に、恒例のタカさ〜ん、チェーック!」
男子の自己紹介が終わると、女子の自己紹介の前に貴さん(=快斗)チェック。
少し離れたところにいる女子メンバーを快斗だけが先に見ることが出来る。
その後晴れてご対面。アピールタイムとなり、特技などを披露する。
このときに、快斗はこっそり第一印象を聞いて回る。司会もなかなか大変だ。
第一印象を聞く限り、やっぱり一番人気は流石の小泉紅子。
一番にパスしそうなこの祭りに、彼女が参加すること自体びっくりである。

アピールタイムの後はフリータイムとなって、二人きりやグループで各自談笑。
フリータイム中にツーショットとなると、その後カップルになる確率が高くなるとか何とか。
一番人気の女子には多くの男子が集まるのがお約束なため、紅子の周りにはいつものように野郎共がえさに飢えた野獣のように群がっていた。
そんな中青子にも何人かの声がかかっていて、快斗は独り面白くなかったり。



そしていよいよラストの告白タイム。
告白の際は、男女共に向かい合って一列に並ぶ。ちょうどこの頃は夕焼けが綺麗で、ムード満点。勢い余ってうっかり女子もOKしちゃいそうな雰囲気だ。
進行役の快斗と探が野郎共に誰に告白するかをこっそり聞き出した後、男子は一人ずつ意中の女子の元へと歩いていく。一斉に辺りに緊張が走る。
他に競合者がいなければそのまま告白となるが、その女子を他にも狙っていた競合者がいれば「ちょっと待った!」と叫んで駆けつけるというシステムだ。
女子が気に入れば、差し出された右手を取ってカップル成立。気に入らなければ「ゴメンナサイ」といって拒否することも可能。もちろん複数から告白された場合その中から選ぶことが出来るし、あるいは全員断ることも出来る。全ては女子次第。
振られたら、速やかに叫びながら走り去らなければいけないという暗黙のルールもある。

男子67人に対して、女子は35人。絶対誰かは余るという約二倍の倍率。
「好きです!お願いします!!」
「僕と墓まで一緒に行きませんか?」
「女王様と呼ばせて下さい!」
「いや、黙ってオレについてこい」
なんて告白の言葉も様々。
それでもカップル成立は難しく、今までに成功したのはわずか2組。
一番人気の紅子の前には23人もの男が散っていった。
あっさり「ゴメンナサイ」と言い切った彼女の潔さは、何とも小気味良くて。
振られた男たちはこぞって「あばよ!いい夢見せてもらったぜ」と某芸能人の真似をして走り去っていったものだった。

「どう?面白かった?」
「待ち人が来ない悔しさがよく解ったわ」
「あんなに告白されていたのに?誰を待っていたわけ?」
「…貴方ってもう…本当に」
紅子の苦悩なんて知る由もなく、快斗は残っている青子のことが気になっていた。





結局青子は一人から告白されたが、断った。
カップル成功は3組に終わり、大いなる盛り上がりをみせて今年の文化祭は終了した。

「タイプのやつ、いなかった?」
「…うん。青子はまだそういうこと、よく解らないし」
「恋愛とは態度だけでも言葉だけでも解らないですしね…奥が深いです」
「あら、簡単よ。出逢った瞬間ピンと来て、恋に落ちるのよ」
「紅子はそんな経験あるわけ?」
「ま、まぁね」



「でも好きな人が自分も好きなんて、すごく奇跡的なことだと思わない?」



いつかくるそんな出逢いのために、僕らはもう少し頑張ってみようか。










2005.7.9