ほんのり甘酸っぱいいちご味。
ココアが香るチョコレート味。
懐かしのバニラ味。
一風変わった抹茶味。
数え出したら止まらない。
食べ始めたら止められない。
そんなあたしの可愛いロリポップたち。
貴方はあたしにどの味をくれる?
ロリポップ下さい
「ねぇ」
「・・・・・・・・・・何だよ?」
ふと甘い声で呼ばれた彼は、本から目を離さずに声を上げた。
「飴が欲しいわ」
彼女は膝に座って、その愛らしい顔を彼の胸に沈めていた。
彼女のシャンプーの甘い香りが漂う。
「・・・・・・・・・自分で買ってこいよ」
顔を上げようとしない彼女に軽くつっこんでおく。
「じゃぁ、一緒に買い物でも行こうか?」
彼女の狙いはこれだったのだ。
「・・・・・・・面倒くさい」
「ほら、本ばかり読んでないで」
白い小さな手で誘われたら、誰だって断れない。
「飴だけのために出かけるのか?」
「いいじゃない、たまには」
それもいいかもしれない。
ニ人で手をつないで、どこかに行くとかそんなんじゃなく、
ただ歩き回るというのも。
彼は自分を照らす太陽。
彼の手はお日様の手。
お日様の手で守られながら、街を歩く。
「どんな飴が欲しいんだ?」
「・・・・・・・ロリポップ」
「ペロペロキャンディーか」
「そう、丸くて渦を巻いてるやつ」
今時ペロペロキャンディーを売ってるところなんてあるのだろうか。
しかも丸くて渦を巻いてるレトロなやつが。
「・・・・・・・駄菓子屋でも行くか」
「駄菓子屋・・・・・・・・・・?」
「行ったことないのか?」
「名前は聞いたことあるけど・・・・・」
そう言って首を振る。
「じゃぁ、連れてってやるよ」
子供の頃よく遊んだ、昔馴染みの駄菓子屋を探す。
確かあの角を曲がったら・・・・・
ほら見えた。
店の感じは全然変わっていない。
おんぼろだった店はさらに老朽化が進み、
店番のおばあちゃんも更に年とったみたいだ。
甘酸っぱい記憶がよみがえる。
授業が終わるとランドセルのまま、あの駄菓子屋に行ったっけ。
いっぱい買っても、百円を出してお釣りが来た。
十円のガムにチョコレート、ラムネにめんこ。
まさにお菓子とおもちゃの宝庫。
「・・・・・・・・・こんにちわ」
十年ほど前に通っていたオレを覚えているか解らないが、一応声をかける。
おばあちゃんはメガネをかけて、じっと顔を覗き込む。
「新一君か」
『ほーっ』と声を出し、肩をパンパン叩かれた。
「お久しぶりです」
「まぁー!こんなに大きくなって」
「えぇ、まぁ・・・・」
「昔は小さくて生意気なガキだったけどねぇ」
ニ人が昔話を始めてしまったため、哀は店内に目をやる。
色とりどりの箱に入れられた鮮やかなお菓子達。
天井から吊り下げられたプラスチックのおもちゃ達。
どれもこれも新鮮で、初めて見るものばかりだった。
どんどんそれらに魅せられて店内に入っていく。
そして目当てのものを見つけた。
白地にピンクの渦が巻いたロリポップ。
おそらくはイチゴ味。
その隣にも茶色いのやオレンジの、緑のものなどいろいろある。
こんなに色鮮やかなロリポップを見るのも初めてだ。
「あぁ、そうだ・・・・ペロペロキャンディーある?」
今日の目的は昔話ではない。
彼女に怒られてしまうと隣を見たが、彼女の姿はなかった。
もう既にちゃっかりと店の奥で何やら探している。
「うちにない菓子はないぞ」
「あの子が欲しいって言うから連れて来たんですよ」
そう言って彼女を親指で指差す。
どうやら目当てのものは見つかったらしく、笑顔が見える。
「可愛らしい娘さんじゃのう・・・・妹さんか?」
「いいえ、恋人ですよ」
そう、オレだけの天使。
おばあちゃんはオレ達の年の差に目を丸くしていたが、
そんなのは関係ない。
君さえいてくれればいい。
「新一」
嬉しそうに、籠いっぱいに詰め込んだペロペロキャンディーと共に戻ってきた。
「随分いっぱいだな」
「ガラスのコップに入れて部屋に飾るのよ」
「食べるんじゃないのか?」
「少しはね」
彼女の笑顔さえあればいい。
「じゃぁ、おばあちゃんお会計ね」
「これとこれは今食べて、後は飾っておこう」
家に着くと、さっそく包みを開けてニ人で食べる。
残りはさっきも言ってたように、ガラスのコップに飾る。
「抹茶は珍しいな」
哀の抹茶味は新鮮だ。
かりかりかじる音がする。
抹茶味のカケラたちを口の中に転がして遊ぶ。
「甘くておいしい・・・・・・新一のコーヒーもちょうだい」
小さな舌でペロリと舐める。
甘くて苦い香りのハーモニー。
「連れてってくれてありがとね」
目の前に並んだ色とりどりのロリポップたち。
貴方を愛して初めて知った、このほろ苦ビターな味わいも、
いちごのようにほんのり甘酸っぱい感情も、
太陽からの恵みのオレンジ味の元気も、
どこか懐かしいバニラが香る恋模様も、
みんなみんな、貴方がくれた。
彼の左手が耳にかけられ、右手は頬に優しく触れる。
「じゃぁ、今度はオレがもらおうかな?」
そう言って彼はあたしの右手の抹茶キャンディーをペロリと舐め、
そのままあたしの口を塞ぐ。
彼が舐めた抹茶の香りが口の中に広がっていく。
あたしの口の中でカケラとなっていたキャンディーたちは彼を歓迎して、
その見返りに彼の舌がキャンディーたちをゆっくり溶かしていく。
そしてあたしは恋の魔法をかけられた。
二度と醒めることない、
貴方の魔法。
そんなあたしに、ロリポップ下さい。
今度はどんな味をくれる?
3000番ゲットのayumi様へ。
大変遅くなりましたが、新哀の甘甘小説「ロリポップ下さい」です。(ご、ごめんなさい…)
真っ先に浮かんだのはこのキャンディーネタでした。でも原稿が全然進まず…
新ちゃんエロイですね(笑)新ちゃんが二十歳くらいで、哀ちゃんが十歳くらいだと思われる。
こんなんでも気に入って下さったら光栄です。
それではこれからも『未完成症候群』共々、よろしくお願いします。
キリ番申告ありがとうございました。