「ねぇ、子供ころどんなお伽話が好きだった?」
ここは工藤邸。
いつものように好き勝手に人様の家に上がり込んだ黒羽快斗は
部屋に入るなりこんなことを言い出した。
「はっ?!おまえ急に何なんだよ?」
この屋敷の主、工藤新一は不可解な快斗の言動に困惑したが、
先に来て優雅に読書をしていた灰原哀はそのままの姿勢で
「桃太郎」
と何とも素敵な答えをしてくれた。
「っていうか、お前帰国子女だろうが」
帰国子女のお嬢さんが何故桃太郎が好きなのか、理由を知りたい。
「父親が好きだったのよ」
「ふーん」
あの科学者が桃太郎を好きだったなんて、意外と言うか何と言うか。
世の中不思議なこともあるもんだ。
「それにしても色気ねーな」
女の子なら、白雪姫やシンデレラとか出てきそうなのに。
少なくとも、彼女の親友の女の子ならそう答えそうだ。
「貴方は白雪姫とかそういった答えを望んでいたのかしら?」
見透かしたような微笑みにドキリとする。
この余裕は一体どこから来るのだろう。
自分よりも一回り小さい―正確に言えば自分より年上なのだが
この少女にかなり参っている。
彼女の隣でヘラヘラ笑っている快斗だって
世間では名探偵と持て囃されている自分だって
彼女の前じゃ形無しなんだ。
「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ?」
「何よ急に」
「白雪姫だって眠れる森の美女だって、王子様のキスで目が覚めるんだよねー」
「・・・・・それがどうかした?」
「ううん。別に?オレが哀ちゃんの王子様になってあげてもいいなーって」
「間に合ってるわ」
こんなふざけた態度しか取れないけど、君が大切なんだよ。
「で、そういう貴方たちは?」
反対に哀に訊ねられ、二人で顔を見合わせ考え込む。
子供の頃、母さんが話してくれたお伽話。
もっともっととせがんで聞かせてもらった、遠い日の想い出。
あの少年の日の想い出から、どれほど経っただろうか。
僕たちはあれからずっと探している。
「・・・・・・青い鳥とか」
「チルチルミチル」
ったく、顔が似てる上に考えることまで一緒かよ。
「幸福は身近なところにあるって話ね」
馬鹿にするでもなく笑うわけでもなく、哀はそっと微笑んだ。
「オレにとっての青い鳥は哀ちゃん・・・・・・かな?」
「青い鳥ってキジバトらしいわよ」
「ロマンねーな」
そんな三人のやり取り。
本音は心に秘めて。
彼女はきっと、どちらかなんて選べないから。
「あら、あたしは誰のものでもないけど?」
地位や名誉なんかよりもずっとずっとかけがえのない、
君のとびきりの笑顔。
僕達は、ずいぶん遠くまで探しに行ったけど、
本当はいつもここにいたんだ。
僕達の、青い鳥。
|