君のためなら何でもする。

たとえそれが卑怯なことでも、
君を手に入れるためなら僕はどんなことも惜しまない。



―なんちゃってね。






放課後の術師


>>I give you my love.











傘を忘れた。

「今日は夕方から雨かも」なんて天気予報のお姉さんが言っていたのに。
きっとそのお姉さんが美人過ぎて、肝心の天気のことなんてちっとも聞いていなかったのに違いない。
そのお姉さんは確か現役女子大生で・・・・まぁ、そんなことはどうでもいい。



オレには彼女がいるからね。

こんな言い方だと誤解されるかもしれないけど、まだ付き合ってはいない。
でも彼女―同じクラスの灰原哀嬢は、オレにとってイチバンの人。



何がイチバンなのかって?

イチバン好きで、イチバン大切な人。



そんな彼女の傘を見つけてしまった。
昇降口に立てかけてあるクラスごとの傘立て。
どの傘よりも一際美しく、立てかけてあった。

「広がると紫陽花の下にいるみたいでしょ?」
そう誇らしげに言っていた彼女を思い出す。



手にとって広げてみる。
昇降口の片隅で、そこだけ紫陽花の花が咲いた。






「紫陽花が綺麗だね」
「・・・・・・・そうね」

―君の方が綺麗だよ、なんてまさか言えなくて。

「今は蒼しかないけど紫陽花って色を変えちゃうんだよね、何でだろう?」
「ムツゴロウさんに聞いてみれば」

「だからかな、紫陽花の花言葉が移り気なのは」
「貴方にピッタリじゃない」





「じゃぁ、賭けでもしようか?」
「・・・・・・・・・・・?」



「明日の放課後まで中庭の紫陽花が蒼のままなら、哀ちゃんの勝ち」
「勝ちって何よ?」

「ただし他の色に変わっていたら・・・・・」
「・・・・変わっていたら?」

「君を奪いに行くから覚悟して」





彼女には言えなかった。
傘を失って憂いを帯びた彼女の顔をもっと見ていたかったから、
犯人は自分だなんて言えなかった。

もうとっくに自分の心は彼女に奪われていたのに。



「やっぱり植え替える訳にはいかないよね」










「ってことで協力してくれない?」

ここは阿笠邸。
哀ちゃんの家でもある。

天才科学者と名高い博士に(オレにとっちゃただのおっさんにしか見えない)
恋のアドバイス…もとい、恋の必勝法を聞きにきた。



「哀ちゃんには幸せになって欲しいでしょ?」

いきなりやってきたクラスメイトだと名乗る男から、こんなことを言われて目を白黒させている天才科学者に
軽くウィンクしてみせる。(これでヤローを落とすのもどうかと思うが)

こうして渡されたのは(奪ったとも言う)紫色の粉が入った小瓶。
「さしずめ、魔法の粉―か」










朝見たら紫陽花の色はまだ変わっていなかった。
「あの爺さん・・・・ハメやがったな」

まぁ、でもこんなことでくじける快斗クンではない。
第二作戦、スタート。





時は昼休み。
薬の成果はもう期待出来ない。



「あら、黒羽君・・・・こんなところで何してるの?」

この声は哀ちゃんの友人の吉田歩美嬢。
オレにとってはちょっとヤキモチ妬いちゃう存在である。
しかも「こんなところ」でを強調している辺りが、何とも憎らしい。



「ちょっとね、賭けを」
賭けのことは恐らく彼女も知っているだろうに、オレはわざと口端を上げて笑ってみせた。、

「ずるーい」
言葉とは裏腹に目を三日月にして彼女は笑う。
「ま、バレないように頑張ってね」



親友の許しも得たので早速作業に取り掛かる。





圧力で変えられないのなら、元から変えてしまえばいい。

「この手は本当は使いたくなかったんだけどな」
深呼吸して、口の中で呪文を唱える。



ワン

ツー

スリー





視界は一面、紫。



さぁ、僕は放課後のマジシャン。
君にとっておきの魔法をかけてあげよう。

解けること無い、永遠の愛の魔法を君に。