サラブレッド。
人は彼をこう呼ぶのだろう。
父親は世界的にも有名な作家、母親は元大女優。
両親の愛を一身に受けて育った、誰からも羨ましがられる一人息子。
名門私立という温室でぬくぬく育ち、従順で素直な子供だった。
ところが彼が高校教師の職を選んだことは、周りには予想外のことだった。
母校である高校にあっさり腰を下ろした彼を、変わった奴だと言う。
両親は笑っていた。
まだ子供だった高校生の彼には怖いものなど、何もなかった。
自分が望めば何もかも、自分の手に入ると思っていた。
あんな事件に遭うまでは。
あの少女と出逢ってしまうまでは。
最愛の幼馴染みを失うまでは。
組織を壊滅して、事情を知った彼女が出て行った。
そしてだいぶ経った後、自分は本来在るべき姿に戻った。
空虚だけを抱えて。
その後、彼は妥協というものを知った。
自分が甘ったれた、ただの無力な子供だということに気づいた。
忍耐と妥協を知って、彼は大人になった。
嘘が上手になった。
何よりも「平和と協調」を願った。
自分の気持を押し隠して、絵に描いたような立派な大人となった。
そして今、自分の人生を大きく変えた少女と共に在る。
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