花火★祭り★恋心★
「・・・なぁ、今日夏祭り行かねーか?」
「夏祭り?」
コナンが持ってきたのは町内で配っていた祭りのチラシ。
真っ黄色の紙に太鼓だの金魚など踊っているかなり賑やかなチラシである。
そこには米花川の花火大会の開催が記されている。
人混みが嫌いな彼女を上手く誘おうとしたらしいが、
彼には変化球は似合わない。
普通にストレートに訊ねてしまった。
「・・・・・・・・いいわよ」
しばらくやたら黄色いチラシを眺めていた彼女が、やっと重たい口を開く。
どう来るか心配ヒヤヒヤだった彼はほっと胸をなで下ろす。
(断られたらどーしよーかと思った・・・)
でもこれで安心は出来ない。
彼女は気まぐれだから、いつ「やっぱり止めるわ」なんて言い出すかわからない。
「ほら、金魚すくいもあるし・・・行くよな?」
念を押す。
「別に金魚すくいが特別好きってわけじゃないけど・・・行くわよ?」
そんな彼を不思議そうに見つめる彼女。
「人混み嫌いだけど」
ズキン。
「あんまり楽しそうじゃないけど」
ズキン。
「ニ人仲良く行って来ればいいじゃないか」
博士のしみじみした声に哀が反応する。
「仲良くって・・・そこまで仲良くないわよ?」
トドメの一発。コナンに一億のダメージ!!
何て遊んでいる場合じゃない。
せっかく(仲良くとまではいかないが)哀が一緒に夏祭りに行ってくれると言うのだから、
この際何でもいい。
精一杯遊ばせて頂きます。
「覚悟はしていたけど、やっぱりすごい人ねぇ〜」
その夕方、浴衣姿に着替えた哀の姿を見てコナンはかなり戸惑っていた。
その辺で配っていたうちわを仰ぎながら、人の多さにヤレヤレと呟く彼女には
薄い紫色の浴衣がよく似合っている。
「まっ!せっかくの夏祭りなんだから楽しもうぜ?」
だからそんなドキドキを必死で押さえてわざと明るい声を出す。
ちょっと声が裏返ったような気がするが、気にしてはいけない。
「それにしてもすごい人だな・・・」
地元ではかなり有名なこの祭りにはいろんな人達が来ている。
知り合いにももう何人か会っている。
自分達は子供の姿なので、うっかりしているとはぐれてしまいそうである。
「このまま行くと絶対はぐれるわね」
「・・・そうだな」
コナンとしては手をつなぎたいが、彼女は許してくれないだろう。
そんな彼の気持ちが伝わったのか、彼女の頬が少し赤く染まる。
「・・・・いいわよ」
下を向いたままぶっきらぼうに答える彼女を見て、
コナンは何が何だか分からない顔をした。
それって・・・???
「だ・か・ら!!・・・・・・手を・・・つないでもいいわよ」
「えっ・・・・・?!」
耳まで真っ赤になって手を差し出す彼女を見ていると、
何故だかこちらもつられて真っ赤になってしまった。
差し出された白い小さな手をそっと握りしめる。
彼女がゆっくり握り返してくれたから、彼女の少し火照った体温が伝わる。
暖かい、人のぬくもり。
そのまま賑やかな夜の街へと消えていく。
「へたくそね」
さっきまで可愛らしく頬を赤らめていた彼女はどこへ行ったのか。
相変わらず口を開けば、可愛くない言葉達のオンパレード。
きまりの悪そうに、穴のあいた金魚すくい用の網を持ちながらコナンが言う。
哀が金魚が好きなのでひとつかっこいいところを見せようとしたのだが、
あっさり玉砕。
「じゃぁ、おまえもやってみろよ?」
透明な水槽に入っている朱や黒の金魚らは、
いかにも縁日もので安っぽいがゆらゆらと優雅に泳いでいる。
まるで自分を嘲笑うかのような気がして、コナンは不快になった。
「・・・おじさん、一回やらせてくれない?」
子供みたいにすねる彼を置いて、彼女は金魚よりも優雅に、
百円玉を取り出してやたら愛想のいい店番のおじさんに声をかける。
「おう!べっぴんなお嬢ちゃん、頑張ってな!!」
子供の姿だが美人な客が来て、おじさんは嬉しそうに笑う。
彼女はしばらく何も手につけず、ゆらゆら泳ぐ金魚らをただ眺めていたが、
急に険しい顔つきになりさっと右腕を振り払った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どの位の時間が経っただろうか。
「・・・・マ、マジ?!」
あっという間の出来事に、そこに居た誰もが声を失った。
左手に乗っけていた小さなプラスチックの容器には、一際美しい朱色の金魚の姿が。
無表情の美人がやり遂げた曲芸を、誰もが感心して眺める。
「やるね〜お嬢ちゃん」
「まぁね」
呆気にとられているコナンの横で、おじさんは彼女に大した者だと豪快に笑った。
彼女はと言うとフフフと嬉しそうに笑い、満足げにこちらを向く。
そのしぐさはそれはそれは可愛らしかったのだが、
男のプライドはズタズタにしてくれた。
彼女が金魚取りの名人だなんて知らなかった・・・!!
「・・・こうなったら勝負だ!どちらが多く取れるか!!」
「おっ!いいね〜、坊主。その心意気!!」
勝手に盛り上がりだしたニ人を見て一言、涼しげな哀の言葉。
「下らないわね」
―――夏の夜は涼しい。
「結局貴方はあんなに啖呵切ってたのに一匹も――――」
「うるさいなっ!!」
そう、ヤル気はバッチリあったのに、身体がついていかなかったのである。
その横でもちろん彼女は悠々と鮮やかに金魚を捕りほーだいしていらっしゃった。
あまりにもたくさん捕ってしまったので、一匹だけ透明なビニール袋に入れてもらい、
哀はそれを左手に持って揺らしている。
金魚すくいの他にも射撃だの輪投げだのいろいろ対決したが、
ことごとく惨敗である。
彼女には何も勝てるものがないのかもしれない・・・
そんな少し憂鬱な気分でいると、
「もうすぐ花火の時間ね」
と空いた右手をコナンの手に絡ませながら呟く。
「あぁ・・・もう八時か」
夜店をいろいろと回っていたので、時刻はいつの間にか八時三分前を指していた。
八時丁度から米花川で花火が打ち上げられるのである。
今日のメインは何と言っても、金魚すくいではなくこれである。
つながれた自分の左手が熱くなるのを感じながら、
花火を待っていた。
ヒュードドドドン
ヒュードドドドン
八時ジャスト。
一斉に溢れんばかりの花火の嵐。
一番見やすい席をバッチリゲットし、ニ人で花火を見ていた。
「綺麗・・・」
隣の彼女は満足そう。
「・・・また来年も・・・」
『一緒に行こうか?』という言葉を飲み込む。
彼女の横顔に、花火が映り朱や黄色に変わっていくのが見えたからだ。
(ヤバ・・・・・・綺麗)
そうコナンが思っていると、視線に気づいたのか哀の目がこちらに向けられる。
行く前はあんなことを言っていたのに、どうも楽しかったのが悔しかったのか
少し頬を膨らませて
「・・・・また来年も連れてってよ?」
―――――――もちろんですとも!!
膨らめ!僕らの恋心…
夏の夜に共に膨らむ花火かな。
100HITSゲットのゆりさんへv
リクエストの内容は『コ哀で夏祭りの甘甘小説』でしたが、こんなものでよろしいでしょうか???
ラブラブを目指したのですが、何か違う。(すみません…)
これに懲りずに(?)これからも『未完成症候群』共々よろしくお願いしますv
キリ番報告ありがとうございましたvvv